フロウは俺を力任せに押さえつけ、その薄汚れた細長い麻布で、俺の左手首を強く縛った。

縛られて始めて、麻布の先が祭壇の下に伸びていることに気づく。

状況が把握できない。

フロウは何をやっているんだ?

俺の困惑をよそに、フロウは反対側の手首も縛った。火傷の残る手首を強く括られ、その痛みに上げそうになった悲鳴をどうにか飲み込む。


またたく間に祭壇の上に大の字に縛られてしまい、状況が飲み込めず、呆然とする。

これはいったい何だ? 何故フロウがこんなことを?

黒い予感が走る。だが俺は、無意識にその予感を心の隅へ追いやった。

そんな予感は信じたくなかったし、信じられないからだ。考えたり想像するだけでも冒涜に感じる。


自然と見上げた天井に、月が見えた。

空気は冷たく、夜空は碧く澄み、月や星を際立たせている。

……綺麗だった。

幻想的で、夢の中にいるような……そんな錯覚が起こる。

しかし、拘束された俺の足の間に割り込んで、俺を見下ろすフロウの存在が、俺を現実に引き戻した。

フロウは、どこか茫洋とした双眸でこちらを見下ろしている。

……………

……違う。

こんな男は知らない。だがどう見てもフロウだ。

俺のことを好きだと言った。

だがそのことに悩み、苦しんでいる様子だったフロウとは、まったくの別人に───

──ゆっくり傾いできたフロウが、俺の唇を自分のそれで塞いだ。

キス───されている。

一度触れてしまえば、噛みつくような乱暴さで早急に貪られた。呼吸ごと攫うように、俺の口中を蹂躙してくる。

【ルシル】
「……ッふ、ッ……ンンッ、んーッ……!!」


闇雲に頭を振って逃れ、身の上に居るフロウを強く睨みつける。

【ルシル】
「……っはぁッ!! フロウ!! どうしたんだ……!!しっかりしろ、フロウ!!」


腹の底から声を出して名を呼んだ。呼応するように、さまよっていたフロウの目が、一瞬焦点を結ぶ。









【フロウ】
「っ……! に……逃げて、ルシ……」














【フロウ】
「――――駄目だよ、逃がさない」




苦しげな呻きに似た呟き。口調の変わったその直後、うっすらとフロウの唇が笑んでいく。

酷く幸福そうな――その微笑み。



//天使ルートより一部抜粋