行きと同じ道を通り、帰路を行く。

俺達を乗せた斑の大きな馬は、行きと同じ調子でがっぽがっぽと歩いている。

荷が増えたのに気にしてる様子もない。

飼い主の天使に似て、力持ちの馬なのだろう。

※画像は開発中のものです。
本編では変更する可能性があります。
ご了承のほどよろしくお願いいたします。

町を出たところに立てられた、魔除けの模様が描かれた柱を通り過ぎた時、言いようのない虚しさを感じた。

空気が冷たい。

気持ちが重い。

行きは早く感じたが、帰りの道のりは遅く感じる。

こんなにも遅く感じるのは、暗く、景色が変わらないせいもあるかもしれないが……それだけではないだろう。

……病院に帰り着く頃には、日付を跨ぎそうだ。


※画像は開発中のものです。
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【ルシル】
「……なぁ」


【フロウ】
「うん」


【ルシル】
「…………天使の……あんたの力は、人間の病気を治せないのか……?」


ずっと気になっていたことだ。今まで問わずにいたのは、やれるならとっくにやっているだろうとも思っていたからだ。

けれど、今は訊かずにはいられなかった。

【フロウ】
「“天使”にそういう力があるかないか、という話ならもちろん“ある”。病を治すことはできる。……でも、今の僕は、その力を扱えない」


下界に降りるからには、下界のルールに従わなければならない。

天使の力は強い。人間界でその力を振るえば、間違いなく色々なもののバランスを崩してしまうことになる……

そう語るフロウの口調は、どこか不満そうだ。

確かに、人間より遥かに万能な存在である天使が、人間の領分である下界で好きなように振る舞っていいはずもない。

【フロウ】
「………だからね!? 制約がものっっっっっすごっく多いんだ! ちょっ……とだけ力を使いたいなぁと思っても制約に縛られてもうがんじがらめだよ!!」



※画像は開発中のものです。
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暗い様子だったのに、突然、おかしくなった。

どうしたんだこいつ。

【フロウ】
「例えば今! 暗いから光が欲しいよね!? 夜が明けるまでの間、ブチを光らせよう、と考える」


“ブチ”とは、この馬の名前だ。変な名前なので俺は一度も呼んだことがない。

【フロウ】
「でも地上のルールでは、馬は光らない。だからこれは、地上の理に反したことになって、反動を受けることになる」


【フロウ】
「反動とは何か? それは罰だ! “光”に関する罪を犯した僕は、明日一日、光を失う。目が見えなくなってしまうんだ! 天罰をうける」


【ルシル】
「……興味深いな」


【フロウ】
「そう? もう少し話していい?」


フロウは小さく深呼吸をし、少し落ち着いてから話し出した。

【フロウ】
「……受肉してこの世界に降り立ったときから、制約は感じていたんだよ。本能みたいに」


───“地上のルールに反してはいけない”───

例えば、人間は水中では息ができない。だから人間として受肉し、地上で生きているフロウは、水中で息ができない。

だが天使の力を使えば呼吸が可能になる。

【フロウ】
「そういった制約を破ったらどうなるか……。僕は、興味を持った」


【ルシル】
「試したのか……?」


【フロウ】
「試した。ルールを破ったらなにが起こるのか、知っておいたほうがいいと思って」


怖いもの知らずなのか、馬鹿なのか。

地上に降りたとき、この天使は一糸まとわぬ姿だった。だからまず最初に、肌を隠すための布が欲しくなった。

だから天使の力を使い、布を具現化させた。

天使の時はよくやっていた方法で、無から何かを作る。その時は身体を覆える大きさの白い布を具現化したらしい。

【フロウ】
「布の具現化には成功したけど、具現化した瞬間、泥水に浸したみたいな汚れが浮き出てきた。変な臭いもした」

【フロウ】
「しかも、おかしな虫が寄ってきてむしゃむしゃ食べ始めたんだ。僕はビックリしたよ……」


【ルシル】
「食べ……布を?」


【フロウ】
「布と、僕を」


【ルシル】
「…………」




//天使ルートより一部抜粋