カルの遠ざかっていく足音と入れ替わりに、階段を上がってくる足音が聞こえる。

立ち上がって、身構えた。

【ロベリア】
「……気分はどうだ?」


【ルシル】
「…………」


【ロベリア】
「ふふ……もう出歩けるか。いいぞ」


数段下で立ち止まったロベリアが髪をかき上げてみせた。

腹立たしいほどの余裕だ。

【ロベリア】
「散歩にでも行くつもりだったか?」


【ルシル】
「お前に話すことがある」


拳を握った左手をロベリアの前に差し出し、手首に刻まれた呪文を示してみせる。

【ルシル】
「これは、契約と関係ないだろう」


【ロベリア】
「…………」


【ルシル】
「解呪しろ。こんな制約は聞いてないし、許してない」


【ロベリア】
「ふむ……」


相づちを打ったようにも聞こえたが、ロベリアの視線は呪文の刻まれた腕を見てはいない。

言外に「話をするつもりはない」と言われているような気がしてカッとなった。

【ルシル】
「……おい!」


強く声をかけると視線はこちらを向いたが、細められた目は揶揄の色を乗せている。

【ロベリア】
「……来い。ルシル」


誘うような手を差し伸べられて、一歩下がった。

――下がった、つもり、だった。

【ルシル】
「……っ!?」


足が勝手に……ふらふらと階段を下りる。

俺の意思とは関係無く、ロベリアに呼ばれるまま引き寄せられていく。

一歩。さらに一歩。

まさか……いや、おそらく、これも手足に刻まれたこの呪文のせいか。

言うことをきかない自分の身体に、ふと昨日の情事を思いだした。

怪我と熱で朦朧としていたせいだと思っていたが、昨日の行為の最中、抵抗が上手くできなかったのはこの呪文の力もあったのか。

なんとか意識を集中して抗おうとする。

しかし、また一歩。

ついにロベリアの目の前まで下りてきて、足は止まった。

文様の上から手首を掴まれ、身体がすくむ。
解呪しろ、と言ったこちらの要求を、有無を言わさず握りつぶすような態度だった。

【ルシル】
「っ、やめ……! んぅ――ッ…」


俺より低い位置に立つロベリアが、下から掬い上げるようにして口付ける。

顎と腰を取られた勢いで、身体を覆っていたシーツは何の抵抗も無くするりと俺の足元に落ちた。

その冷たい手から逃れようと反射的にもがいたが、ロベリアの手はびくともしない。

……合わせた唇から流れ込んでくる甘い香り。

器用に、そしてあまりにもなめらかに動くロベリアの舌……

くらりとする匂いに気を取られているうちに、その侵入を許してしまった。

これでは、昨日とまるで同じだ。この後の展開など、さすがにわかりきっている。

拒否の意を込めて縮こまるこちらの舌を絡め取り、飴でも舐め溶かすように丁寧に転がす。

【ルシル】
「ん、む………ンンンッ……っ!」


抗議の声は、噛みつくように深く合わせ直した唇に塞がれ、代わりに口の端から唾液があふれて首筋まで伝った。

混じり合った唾液は、どちらのものかわからない。

緩やかに甘く絡まり、溶かされてゆく。
抵抗するのが酷く難しい。
喜んで(すが)るわけではないが、逃げ出せなかった。

【ルシル】
「ん……ん……ふっ、ん、ん……はぁっ、んっ……んんん………!」


気を抜くと身体の力が抜けてしまう。おかしい。やはりこの手足の呪文に縛られているとしか思えない。

【ロベリア】
「ん……、まだ熱っぽいか?」



※画像は開発中のものです。
本編では変更する可能性があります。
ご了承のほどよろしくお願いいたします。
唇を僅かに浮かせたロベリアが首を傾げた。
悪びれない態度に、怒りを込めて睨み返す。

【ルシル】
「っ、お前、俺に何をした……!」


【ロベリア】
「今日はまだ何もしてないな。これからするんだ」


//悪魔ルートより一部抜粋